このカメラはフォビオンセンサー(これまでも何度も紹介されてきたので今回は割愛)という3層構造のイメージセンサを持つことにより、他の一眼レフタイプデジタルカメラとは一線を画する独立した存在です。もちろんシグマさんのフラッグシップモデルです。これまでいくつかのモデルが存在していたが、画素数が最高で約465万画素とやや物足りない感がありました。今回発表されたSD1は約1475万画素という実用的な解像度を持ち、フォビオンセンサーにさらに磨きをかけ、処理回路も大幅に見直したということで期待を持ってテストしてみました。
演算しないで得られる真性のデータ…ワンショットデジタルカメラにおいてこの一点にかけては他の追随を全く許さない唯一無二のデータ。
なんといっても最大の魅力はベイヤー配列のデジタルカメラを遥かに凌駕する解像感。赤枠の部分のラインが1ピクセルに相当します。比較したのはワンショット機の中でも最高の色分離性能を誇るD7000とイメージセンサーを移動させながら4回のシャッターを切り、真性のデータを拾得するH4D50MS …ワンショット機ではなくマルチショット機です。WEBページではチャートの一部しか掲載していませんが、こちらからチャートのフルデータをダウンロードすることができます。
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D7000はRGBを生成する際に演算が必要なワンショットタイプのデジタルカメラとしては素晴らしい成績を収めています。特にグレイの上に接した同明度の色相を分離する能力は一級品。赤枠の「1ピクセル対応チャート」を見ても破綻がなく、まとまりの良い処理をしています。全体に眠く黒がしまらないのはこの最も細いラインを構成するピクセル数が絶対的に足りないから。そして本来真っ黒で細いはずの1~2pixelの線が太って明度が上がる現象が見て取れます。
それに比較して演算無しにRGBを記録できる SD1は、全体にコントラスト再現が強すぎる感はありますがすばらしいエッジと黒の締まりを実現させています。線が太る現象も起こさないので、1ピクセルチャートのラインの解像もみごとです。ワンショットタイプのデジタルカメラでは、赤枠内右下にある同心円をここまで再現する事は不可能でしょう。 グレイの上に置かれた同明度の色相もきちんと分離しているのが素敵です。この精度で約1475万画素あるので3000万画素程度に補完補正しても十分使えるデータとなるでしょう。
RGBの演算が不要なカメラの比較としてフラッグシップのハッセルH4D50MSのデータを並べてみました。色彩演色性、全体の完成度では及びませんが、1ピクセルチャートの解像力ではではSD1のほうが勝っていたことに驚きました。これは撮影後にピクセルの位置合わせを必要としないワンショット機であることの大きなメリットなのでしょう。(H4DII50MSの120ミリレンズの場合搭載されているレンズシャッターの「ぶれ」が画像生成に悪影響を及ぼしているらしい)
ダイナミックレンジ
一番気になっていたダイナミックレンジはコダック社が提供していたダイナミックレンジ測定用のチャートを使用しました。右下が素通しの白で、ここがRGB255になるように撮影してどの濃度帯まで再現しているかを判定するものです。見やすいようにシャドウ部のトーンカーブを持ち上げていますが、15段目まではノイズもなく色転びも少ない。16段目から21段目までもノイズは乗ってくるものの、諧調は見事に再現しています。最暗部との階調差もきちんと記録されています。ワンショットの中でも最大のダイナミックレンジをほこる D7000と比較しても再現可能な範囲に大きな差はありません。(D7000の方がノイズ処理が旨いようですが、シャドウ側の色相に乱れが見えますね)
高感度特性
ISO100から400までは色分離も素晴らしく十分に商品撮影に使用できる品質 。ISO800から、徐々にノイズが目立ち始め、ISO6400では盛大なノイズが出ている…のですが、階調変化はしっかり記録されています。色分離の良さと忠実な明度変化を保っているため、高感度であってもスナップ、作品、あるいはイメージ的な写真としては十分に使用できると感じました。(ワンショット機の場合は、こうはいかない場合が多いですね)
色再現において全体に彩度が上がらず、グリーン、レッドなどの演色性が低く感じます。また、これらの色彩が同明度でグレイと接する部分が早く同化するのはセンサーの特性だろう。このあたりの処理は、是非もう一歩踏み込んで欲しい。(確かにこのセンサーの構造上の問題を考えれば ISO感度を上げることを無理矢理要求するのは酷な気もするが…)(ISO100の画像は当然綺麗なので省略しました。)
長時間露光特性
実はあまり期待していなかったので、細かい測定しなかったのだが、30秒露光でこの仕上がりです。SD15の時代から飛躍的にに良くなっています。 長時間露光が十分使用に耐える素晴らしい成績で驚きました。120秒で発生するランダムなノイズを見ると、高感度時のノイズとは異なり、センサー温度が上昇してこのような結果になったのではないかと予測しています。
カメラとしての操作性
メインスイッチが左側(上から見て)にあることには少々戸惑いました。時々このようなレイアウト(7Dもしかり…)がありますが、基本的なレイアウトはよほどの理由がない限り普遍的なスタイルを踏襲した方が良いと個人的には考えています。何かこのレイアウトに意味があれば別ですが…。今度機会があれば開発者にお伺いしてみたいと思っています。
いくつかの操作感で、このカメラを一般的なニコン、キヤノンなどのデジタルカメラと同じように扱うとびっくりします。シャッターを押してから液晶に表示されるまで3秒ほどのタイムラグがあり、その液晶表示は二世代前のカメラを見ているようです。ライブビューが見送られたのも残念でした。もちろん、シャッターの感触、ボディの作りなどSD15からは確実に良くなっていますが、「普通に使えるカメラ」としての完成感を得るまではもう少し進化が必要ではないかと感じました。もちろんこの特殊なセンサーをハンドリングするために大変な努力をしており、それでなお、この現実なのだろうと理解していますが…。
また、当然ですが安易に手持ちで撮影するとろくな結果を得られません。確実に高速シャッターを切るか、三脚にしっかり固定していないとミラーショックや手ぶれがそのままイメージセンサに記録されてしまいます。これは2000万画素オーバーのカメラすべてに言えることですが、このカメラの場合特に留意するべきです。くれぐれもコンシューマー機とは全く存在のベースが異なるカメラだと言うことを肝に銘じて使うべきだと考えます。
他の「ベイヤー配列のデジタルカメラを遙かに凌駕する真正のデータを得るデジタルカメラ」のほとんどは450万円オーバーであり、しかも「4回シャッターを切る必要があるために、マイクロスキャンでは動態は撮影できないマルチショット」という大きなデメリットがあります。ワンショット撮影で動体を撮影することは可能だがその場合は通常のベイヤー配列を利用した撮影になってしまいます。60万円程度で購入でき、銀塩を遙かにしのぐ素晴らしい真正のデータをワンショットで撮影できる世界に唯一のカメラだということに納得して使うのであれば、十分に期待に答えてくれるデジタルカメラだといえます。
実写テスト
定点観測に私が使用している九段の風景をNikon D7000、そして金額的に同等のD3Xと撮り比べてみました。バランスを考えて D7000と SD1に50mm、(シグマは50mm F1.4 EX DG HSM)フルサイズの D3Xには85mmレンズを装着しました。
D7000 の解像度が1620万画素、なのでSD1よりは少々有利。D3X は2400万画素なので、ほとんど同等の再現をしています。D7000は、排気口にモアレが出ており、フェンスは全く解像できていません。SD1はフェンスの縦の線も捕らえているし、煉瓦の立体感もSD1のほうが上です。
クリックすると比較画像をフルサイズで表示しますし、フルサイズデータはこちらからダウンロード出来ます。
8-16mm F4.5-5.6 DC HSM という超広角ズームレンズを使用して同じシーンを撮影見しました。なるべく同じ画角になるように D3X は20mm、D7000と SD1は14mm相当です。
画面上で同じ大きさに見えるようにディスプレイ上で拡大率を調整しました。2400万画素のD3X と1440万画素の SDI が良い勝負をしています。1650万画素のD7000はピクセル解像力で1440万画素に全くかなわないことがよく分かりますね。
クリックすると比較画像をフルサイズで表示しますし、フルサイズデータはこちらからダウンロード出来ます。
35mmフルサイズ用のニコン14-24mmF2.8と言う超弩級の明るいレンズ。そして SD1には シグマの8-16mm F4.5-5.6 DC HSM を装着しました。14-24はフルサイズ用、8-16はAPS-C サイズ用という差がありますがカメラバッグ内部の容積は二倍程度違います。重さ、大きさ共に普段持って歩いても負担にならないのと、周辺があまり流れずきちんと解像している良いレンズです。シグマSD1に装着するとフルサイズの2400万画素と同等のデータを得ることができます。D7000につけてニコン純正の16-85mmズームとセットで使用したときに あまりに使いやすかったので、すぐに購入してしまいました。
実写のおまけ
SD1のレポートというわけではありませんが、8mm-16mm F4.5-5.6 DC HSM を使用して広角側の8mm側で撮影。35mmリ換算で12mm…むちゃくちゃ超広角です。こんな風景出ないとなかなか使いこなせません。 F 値は6.3 周辺輝度差の強い部分に盛大な色収差が出ていますが、これは修正可能。…それよりも周辺の葉がきちんと記録されていることにびっくりしました。真っ白な空から落ち葉の重なる暗い地面まできちんと記録しています。
こちらも8mm-16mmですが望遠側の16m側で撮影しました。35mm 換算で24ミリ。結構多く使用する画角ですね。 F8です。壁やテラスの煉瓦、屋根のスレートなどどれをとっても見事です。残念ながら閉館時間を過ぎていたので、これ以上近づくことができませんでしたので、周辺部はよく分かりませんがやや色収差はあるようです。
九州電塾の佐口様が撮影してくださいましたデータです。ダイナミックレンジと長時間露光、そして高解像感を惜しみなく再現しつつ、作品としての完成度が高い見事な写真です。SD1はこう使うんだという見事な作例…いや作品だともいます。良いカメラは良い写真を作りますね。
上の3点のデータはこちらからダウンロードしてください。 なお、このレポートは運営委員の金田氏、阿部氏、山田久美夫氏と共に検証した結果をまとめた物です。皆様ありがとうございました。
2011/8/22 電塾運営委員 鹿野 宏