最近の電塾は情報を盛りだくさんにしすぎて、それぞれの発表時間が短くなる傾向にあったので、今後は心を入れ替え、自己紹介とメインテーマを2本に絞って行うようにするとの塾長からの所信表明がありました。じっくりとお話しをお伺いし、納得できるまで質問が出きるのが電塾の真骨頂です。私も賛成!。今回は久々に鹿野がレポートします。
ところで、有明スポーツセンターは駐車違反の取り締まりの影響で、施設使用者以外の駐車が増えた為、駐車場を有料化するそうです。残念ですが、車での来場の場合、駐車料金を支払う必要が出てきた、という結果になってしまいました。
いつものように自己紹介。今回も湯浅氏がいないにもかかわらず、「欲しいものは買ってしまえ」的なお話が尾を引いていたようです。もちろん大賛成はですが、個人的には「欲しいもの」ではなく、「必要とする物は」としておきたいところですが…。
毎回、何か「面白い物」をお持ちくださる柳沢さんが光るボールペンを持ってきました。手暗がりの環境でも、書いている部分を明るくしてくれると言う優れもの…。今回は見せびらかすだけではなく、9本ほどプレゼントされており、私も1本ゲットしました。もともとは赤い発光ダイオードが付いていた物をわざわざ白色ダイオードに換装してのプレゼントでした。感謝!。
私は、今マイブームの痛風の話、ビデオもお仕事にしている方からは、ブルーレイの話。どうも次世代DVDはブルーレイで決着が着きそうな気配です。最年長の古川氏は、一番お元気でお声が出ていたように感じます。最近は時間ぴったりに締める第1部、今回も見事に時間通り進行しました。
ソニー株式会社 DI事業本部
AMC事業部 設計部 宮本 忠之(カメラ本体設計担当)
オプト技術部門 CLグループ 西田泰夫(交換レンズ担当)
AMC事業部 開発部 中山春樹(画像処理担当)
システム技術部門 カメラ部 坂上順一(RAW現像アプリ担当)
AMC事業部 MK部 永井敏雄
家電で時代をリードする株式会社ソニーがついにデジタル一眼レフを販売する事になりました。今回はその発表を受けて、電塾初お目見えです。ミノルタ、コニカミノルタ時代からおなじみの永井氏を始め、商品設計の宮本様、レンズ設計の長井様、ボディを開発している中山様は堺から、RAW現像アプリケーションを担当した坂上様、という、一眼レフを開発してきたそれぞれの部門の方々が、勢ぞろいしての発表でした。
私としては、原宿ヒルズで行われた正規の発表会より、はるかに興味深い発表だったと思います。
では、早速その内容をレポートしましょう。
基本性能
基本性能──というよりもその特徴は早川塾長が指摘したように手ぶれ補正とごみ取り機能。ごみ取り機能はイメージセンサを駆動する機能をそのまま生かして一挙両得を狙った物。上下左右の振動だけでは落ちないゴミもあるので、あらかじめ表面のローパスフィルターには静電気を静める役目をし、ゴミの付着を妨げるコーティングもしてあるのだそうです。オリンパスと違うのは起動時にゴミを取るのではなく、終了時にゴミを取るセッティングになっていること。起動時か終了時か、という選択はこの機能を目玉とするか、サブとするか、という意思表示でもあるようです。オリンパスは目玉とする為、起動時間を遅くするというデメリットをあえて受けつつ、起動時にゴミを取ります。ソニーはメンテナンスの一部として終了時にゴミを取り、最後は使用する人間がブロアで掃除をしやすくするためだそうです。(そのため起動時のスピードは維持される)撮影前にごみ取りをしたければ、その時だけ起動、終了、起動を繰り返せばいいだけの事ですから、一瞬のシャッターチャンスを逃がさないように起動時間を延ばさない、という選択肢が見えてきます。どちらがいいかは撮影スタイルに拠るのでしょう。
ボディ内蔵手ぶれ補正も強化され、以前(コニカミノルタ時代から比較して)よりも補正率が上がり、特に細かいぶれだけではなく、大きな揺れ(低周波ぶれ)の補正能力が向上したそうです。このあたりは写真機の技術と機械工学、エレクトロニクス工学技術が合体した結果、良い方向に出てくるメリットだといえるでしょう。この傾向はソニー製の高性能イメージセンサ1020万画素CCD始め新画像処理エンジン「ビオンズ」、750枚の撮影を可能にする1600mAhのスタミナバッテリーと枚挙にいとまがありません。特にコニカミノルタだけでは到達する為にもっと時間がかかったろうと思われる部分を一挙にショートカットできたのは(これは光学、レンズ系のお話をすればソニー側も同じ事が言えますね)合体の「大いなる恩恵」と解釈できるでしょう。
αレンズラインアップにはまだ新しい目玉が見えませんが、今後が楽しみです。手ぶれ補正をボディに任せる事で、標準から望遠にかけてのレンズ設計がそれを搭載するために受けるさまざまな制約を受けなくて済むのですから。
一つ注目しておきたいのが、ソフトウエアが、全く1から設計され直された物で、現行のマシン上で実に快適の動作するように大きく変貌した事です。RAW現像処理その物の高速化がはかられ、パレット類も1機能1パレットに分類され、[ツールボックス]で必要に応じて呼び出す仕様です。ノートブックなどでは実に使いやすい機能だといえるでしょう。
画質は基本的に以前のαシリーズを受け継ぎ、あらたにDレンジオプティマイザーが追加されました。DRO(Dレンジオプティマイザー)とは撮影後の画像のダイナミックレンジを処理する物で、RAW画像展開時に画像データを分析をし、構図、輝度、感度、色相、その他を参考にガンマカーブをアクティブにコントロールする機能です。まさしく私たちが撮影後にやっている調整に似ています。
DROにはスタンダードとアドバンスがあり、アドバンスではさらに覆い焼きのような機能さえ追加されています。シーン毎の最適化──はっきり言えば見事に逆光補正をすることが可能となっているようです。機能としてはNikon Capture 4のD-Lightingに似ています。ということはボデイ内蔵だけでなく、RAW展開ソフトにも入れ込んで欲しい機能ですね。
総じて、目新しさは少ない物の、値段や仕上がりを含めて実に魅力的に出来ているカメラらだと感じました。個人的にもかなり欲しくなりました。実は発表されても、いったいどんなカメラがでてくるのだろうと、はらはらしていたのです。…が、そんな物は全くの杞憂におわったよう…いや、期待以上の物が仕上がってきたと言えるでしょう。
株式会社ニコン レンズ技術開発部第2開発課 村田 剛氏
先月のNikon D2Xsに引き続きニコンの発表です。今回は新型カメラボディではなく、レンズのコーティング技術のお話。お話の内容も、レンズ表面の光量損失をいかに減らすかというテーマと、[ナノクリスタルコート]の開発経緯で、どちらかというと、以前シリーズ化していた「開発者に聞く」というテーマに準じていたように思えます。特に反射軽減コーティングはイメージセンサにとって有害な現象を大いに軽減し、解像感、諧調感の向上に寄与するとあっては聞き逃せません。
[ナノクリスタルコート]はステッパーの開発技術の中から育っていった技術で、1998年から始まっていたようです。良く勘違いされることに、それは「今までのコーティングよりもはるかに固い膜」ではないということです。また、「ナノ」という言葉から連想されるように緻密な構造でもないそうです。ステッパーのレンズを開発する為に作られたこの技術、実はナノレベルの[粒子]を「粗」にコーティングする、という事で光線の残存反射率(いくらコーティングしてもとりきれない表面反射を差し、現在、どのような物質をコーティング、あるいは多層膜コーティングしてもぬぐい切れない反射を差す。反射率を下げる物質を真空蒸着でコーティングする技術の限界が5%なのだそうだ)を一気に5%から2%前後まで押さえ込むことができるのだそうです。つまり、構造が「粗」であるため、結構「もろく」、「すき間」が空いているので光の屈折を減らす事ができる、と考えていいのでしょう。
コーティングの色は無色。ただし、コーティング層とコーティング層の干渉で色が付いて見えるので、「ニコンのコーティングは黄色い」というような話を良く耳にしますが、コーティングが黄色いのではなく、その相互反射で何かの波長が見えてしまうのだそうです。コーティングはいくつかの層が作る光の干渉で波の性質を利用して反射をなくす仕事をし、ガラス表面では4〜9%の反射が残存するのだそうです。
レンズには表と裏があり、2面を透過すると8〜17%のロスになってしまいます。つまり5%の残存反射は複数枚のレンズを通過すると、かなりの光量ロスを起こしてしまい、それが[ノイズ]、「フレア」となり、有害な内面反射も増やしてしまうのだという事です。
これらを解説する為に、私たちにはちんぷんかんぷんの数式なども多く出現してましたが、その度に平易な言葉に置き換えてくださるので、何だかわかったような気になってしまったのは私だけではないでしょう。(あたしは実際には完璧に理解不能でした)
超低屈折率を実現する為の開発は意外と目的に向かってまっすぐに突き進む事ができたようですが、カメラレンズに導入するには「柔らかい」コーティング膜を強化する必要性があり、ここでは結構苦労されたといいます。
超低屈折率層をレンズ構成の中に導入すると、いわゆるゴースト、フレアを思いきり抑える事ができ、さらに超広角レンズの性能改善に大いに寄与するという事です。特にデジタルカメラはイメージセンサ直前にIRフィルター、ローパスフィルターを備えているので、それらにコーティングする事で周辺の性能を大いに改善する事が期待できそうです。にただしまだ新しい技術であり、そのプロセスを処理する生産量に限界があるので、徐々にナノクリスタルコート対応のレンズを増やしていく姿勢でいるとの事です。次に発表されるラインナップが楽しみです。
通常のレンズ用ガラス、多層膜コーティング、単層膜コーティング、ナノクリスタルコーティングをそれぞれ施したサンプルを拝見し、プロジェクターを通した光量変化に皆一様に驚きの声を上げていました。
最後に私がナノクリスタルコートを採用したマイクロレンズを使い撮影したサンプルをいくつかお見せして今回の電塾はおしまいです。メーカ系、元メーカ系の方々からの質問が多いのが特徴的でした。
新・優しい電塾──電塾版は今回で第5回を数え、午前様電塾として定着してきたようです。
Lab版の電塾と違い、プログラムを持たずに進行するこの電塾、今回は最初にいくつかの質問をいただいて、それにお答えするという型式をとりました。今回は、[画像解像度]と[印刷線数]、ディスプレイとプリンタのカラマネといったご質問が大勢を占めました。お答えした運営委員は、久々のご登場のPhotoshop永島氏、電塾の助教授阿部氏、痛風の鹿野でした。
例によって二次会は8階のマーレで行われました。かなり突っ込んだお話もあり、特に茨城から参加の菊池君は玉内さんを捕まえて、写真館のライティング、画像処理、プリント、デジタルカメラの効果的な使用法に付いて質問をしていたのが印象的です。
今月の一枚は電塾には珍しくバイオが立ち並ぶ風景。
文: 鹿野 宏