gmgの変換の場合、見たところ50%から墨版を生成し、最も黒い部分まで美しいグラデーションを描く。濃い側のコントラストの立ち上げに一役買っている。しかし、通常はUCRを強くかけるとSWOPのように彩度が落ち込む可能性が高い。あれだけ墨版を生成して墨っぽくならないのは墨版のグラデーションの作り方と、CMYの色版を生成するエンジンに工夫がありそう。また、この墨版のあり方がシャープネスに関しても良い方向に寄与しているように思われる。
他のCMYカーブの生成もグラデーションを重視していながら彩度を落とさない工夫がされているようだ。これらが96ビット演算のだからこそ可能なギャマット圧縮エンジンだと言うのだろう。
gmgの技術はICCプロファイルを使用しないというが正確にはギャマット圧縮時にそれを参照してはいる。ただし、そのエンジンが使用しているのはデバイスリンクプロファイルであり、ICCのようにLab色域に変換する事はない、と理解すればいいだろう。(当初──アイガスでお会いした時の説明ではICCプロファイルを使用しないと聞いたので、ちょっと違和感があった)
CMYK to CMKYの場合、通常のプロファイル変換はLabにいったん書き出してからもう一度CMYKに変換する為、墨版の情報を維持できない。理論的には全く同じ色彩を再現できても、ややそれが墨っぽくなったりするのはその為だ。
そのエンジンと96bitというとてつもなく大量のデータを処理する事でやり遂げている事は、相対的な「階調を壊さない」良さと知覚的の「もともと合致している部分」の色彩はできるだけ維持する、という良さと彩度を使用したときの「高彩度感の維持」、を同時にやってのけるようだ。まるでプロファイル変換のいいとこ取りである。これまでプロファイル変換は、こちらを立てればあちらが立たず、という進化途上の技術のため、変換時のアルゴリズムをオペレーターが選択する必要があった。(とくにRGB
to CMYK の場合。)それゆえに(それだけではないが)ICCプロファイルを使用した変換はいまだ不完全と言われてきた。今回紹介されたgmgの技術はその理想系に近いと言えるだろう。
写真画像を扱うプロファイルを作り上げる時に使用するカラーパッチは少ないほうがいい、と言うのは私の持論だ。キーになるポイント(各色の頂点、70%、50%、25%辺り)程度にして、その間はトラブル、矛盾が無いように出来るだけ滑らかにつなげ、固有の色彩の再現力よりは、バランスがとれたグラデーションの再現に重きを置く。(もちろんあくまで写真が相手の場合で、平網をこの方法論で変換するとろくでもない事になる)こんな方法のほうがグラデーションに部分反転を起こしてしまう(一つには、いったんLabに変換されてしまうから、と言う理由もあるのだそうだが)ICCプロファイルよりもはるかにきれいな版を生成できるはずだ、と考えていた。gmgの場合は、測色ポイントを減らさずに、その階調維持を96ビットもの大量の階調データを経て4Dカラー変換と言う技術が、色彩の正確さとグラデーションの美しさの維持を両立させたのだと言えるだろう。
ドットゲイン情報も内部に持ち込んでいるのも通常のICCプロファイルとは異なる部分だ。昔ドットゲインを読み込みながら分解カーブを作り直した事を思い出す。無論、これが実際の印刷と印象を近づけるための要だと言う事は言うまでもない。
シャープネスだが、3Dシャープネスという技術はちょっと驚く。これなら、現在デジタルワークフローの中で色彩とともに大きなクエスチョンとなっているシャープネスはいつ、どこで、誰が、どれだけか適用すればいのか、という問題が一気に解決しそうだ。元画像のサイズと、印刷用のサイズを参照し、どうやら画像内に含まれる低周波成分と高周波成分も演算して最適値を決定しているようで、白縁を生成しすぎず、自動にしてはバランスのとれた素晴らしい仕上がりだ。これなら、カメラマンはRGBデーターの仕上げに「ローパスフィルターによって弱められた、高周波成分をやや取り戻す、あるいはレンズ的な解像感の低下を補う」ことさえすれば、一気に解決しそうだ。もちろん、どのようなシーンでも使えるというものではなく、あくまで「通常の使われ方において」という意味だ。質感再現を強く求められる大型印刷の場合はかなり丁寧なシャープネス処理が必要になるのはいうまでもない。──が、今までのウィークポイントである、「技術者でさえ、悩むシャープネス処理」を解決してくれるのであれば、期待大だ。
おまけに、原寸のままデータを維持して、最後の最後に必要なサイズに自動最適化するユニットも付いているので、今まで手作業で苦労していたリサイズの問題も簡単に解決してくれ、人件費が浮くのは目に見えている。(これって結構な工数が必要だったのだ。また、この方法論が一般化すれば、カメラマンがリサイズに神経をすり減らす必要もなくなるだろう。)
ただし、gmgは商売として成り立っている会社だ。技術の囲い込みを優先しているので、このエンジンを一般に広く使用できるわけではない。きちんと料金を支払って、その恩恵を受ける事になる。たとえばワークフロー(商売の仕方)として同じようなものを目指しているのがフジグラフィックシステムのicolor
QC、大日本スクリーンの「RitecolorNavi(ライトカラーナビ)」LabFit/LabProof
SE を中核に据えたワークフローなどがそれに当たるのかもしれない。(やや強引かもしれないが…デバイスリンクプロファイルを使用する、有効な変換技術を核におく、という点に関しては同列といえるだろう)。
その他のメリットとして、印刷の安定、それによる試し刷り、刷り直しの削減、インキ使用料の削減、というようなものも上げられるという。
確かに、仕上がりの印刷物を見る限り、今までと全く同じ印刷条件で、一つ抜け出た仕上がりをしている。高彩度インキにも対応しているようなので、ヘキサクロームまで走らなくとも、高品質印刷を実現するツールになりそうな予感もある。低価格(とはいっても、ICC、アドビが提供するモノに比べればはるかに高価だが)のデジタルカラーハンドリング対応技術と言えそうだ。
──デバイスリンクプロファイルとは── 2つ以上のデバイスプロファイル(入力と出力のプロファイルをドッキング)と、必要ならば間に抽象プロファイルを混ぜて組み合わせたプロファイル。またLab値を介さずCMYKからCMYKへ直接変換できる。あらかじめ下処理を済ませた情報が入っているようなものなので、このプロファイルだけでカラースペースの変換が実行できる。(通常のICCプロファイルは各デバイスの色再現の数値化ですが、デバイスリンクプロファイルはこれにキャリブレーション等を加えることができる)
1.CMYK→CMYK変換で墨版の保持などの処理が必要な場合 2.大量の画像を一括で処理したい場合 3.抽象プロファイルを利用して、定型的な色補正や特殊効果を適用したい場合 |