垂直色分解のメリットとデメリット
このカメラを語る際にぜひに触れなくてはいけない最大の特徴は、現在存在する唯一の垂直色分解方式「FOVEON X3 Ⓡ」というイメージセンサを採用するデジタルカメラだということです。この特異な存在のシグマ製のデジタルカメラのバージョンアップ版が、SD14となります。偽色が全くなく、ピクセルモアレも最小限にとどめることができるため、ローパスフィルターの存在が不要。そのため、記録された画像の「形」に対するレスポンスは他の水平色分解方式のデジタルカメラに比較して圧倒的な精細感、解像感を誇ります。また、この方式は、「写真的な立体感」も再現可能な方式として注目されてもいます。

ところが垂直色分解方式の場合は、RGB各色の「層」のセンサが重なって存在し、光はそのセンサの「層」が通過しながら情報として記録される。カラーフィルムの原理と同じだと考えて良い。色分離は完璧で偽色やモアレはなく、それぞれが明暗(形)の情報と色彩の情報を実データとして保持しており、水平色分解方式のように演算によって補完する必要がない。故に200%拡大は当たり前で場合によってはさらに拡大しても使用可能なデータを得ることが出来る。その威力はかつてのマルチショットタイプのデジタルカメラのデータを彷彿とさせます。

ただし、うれしいことばかりではなく、光が各層を通過しながら情報を記録する仕組みのため、光が通過する段階でパワーが減衰しやすく、十分な光量を確保できているうちは問題ないが、くらいシーンでの撮影は不得意となります。同じ意味で記録し得るダイナミックレンジも広いとはいえません。十分な光量を確保でき、コントラストコントールができるスタジオ撮影ではその能力をフルに発揮するでしょうが、条件の悪いロケやスナップでは苦しまされるでしょう。DS14を使いこなすにはこの特性を十分に把握して使用する必要がありそうです。

カメラとしての能力も以前のSD10に比較して品質が上がり、多機能ではないものの、基本的な能力は十分に持ちます。RAWデータだけでなくJPEGデータの出力も可能になった意義は大きいとおもいます。新開発のASIC(Application Specific Integrated Circuit)の能力は高く、もちろんRAWデータ品質に比較すればやや見劣りはするものの、実用範囲に十分に入るデータを書き出します。スタジオ内部メインで使用するカメラだと割り切ると、JPEG出力可能なことはメリットだといえるでしょう。

※垂直色分解とは
今更だけれどもちょっと復習。通常のデジタルカメラは水平色分解方式を採用しRGBGのベイヤー配列により、色彩を演算によって補完補正しながら計算する。そのため、実ピクセルの半分程が形を記録する情報の元であり、RGBに関しては実ピクセルの1/2~1/4の情報がその大元となる。故に600万画素のカメラであればその解像感の実力は450万画素程度となり、拡大できる安全係数は150%の900万画素程度といわれる。
ところが垂直色分解方式の場合は、RGB各色の「層」のセンサが重なって存在し、光はそのセンサの「層」が通過しながら情報として記録される。カラーフィルムの原理と同じだと考えて良い。色分離は完璧で偽色やモアレはなく、それぞれが明暗(形)の情報と色彩の情報を実データとして保持しており、水平色分解方式のように演算によって補完する必要がない。故に200%拡大は当たり前で場合によってはさらに拡大しても使用可能なデータを得ることが出来る。その威力はかつてのマルチショットタイプのデジタルカメラのデータを彷彿とさせる。

解像度チャート
基本的に460万画素

 3688×1792=6608.896画素が3層重なってカラーの画像を形成する。確かにセンサーの数は1400万画素あるのですが、実際のデータとしては1画素はRGBの三つの画素が合成されて形成されるので460万画素機として扱うのが正解です。スリーショットタイプの600万画素機を1800万画素のカメラとは言わないのと同じことです。
 ただしそのポテンシャルは高く、ほとんどの場合で200%拡大は普通に行え、場合によっては400%拡大してもへこたらない画像を取得できるのも事実。小さくとって大きく使用することが可能な結構な使い勝手を実現してくれると言い換えることが出来ます。
 それを含んでの話でしょうが、
JPEGモードには最初から200パーセント近い拡大率で書き出す設定も組み込まれており、シーンによっては歓迎されるでしょう。
太さを変化させながら、並ぶ同心円が左上にあります。モアレが確実に出る部分ですが、SD14はほとんどモアレないばかりか、1ピクセルよりも細い線さえ、解像しようとしているようです。ABGの文字を見ても、芯がはっきりした再現をし、白と黒の分離が良い。青い芝鶴の中の丸井ピンクやシアンをもっとも良く再現しているのがやはりSD14だ。
さらに細かい文字を配したチャート。細い線は1ピクセルを割り込んでいるがそれでも形が見えている。注目して欲しいのはグレイの上に置かれたマゼンタやイエローといった明度が高い純色。あるいは明度が同じくらいのレッド、グリーン、ブルーなど。形に関しても彩度に関してもきちんと分離できているのがSD14だ。

おなじみの1ピクセルチャート。本来このチャートを通常の水平色分解では横線や縦線はもちろん、斜めの線を分解できるはずはないのだ。1ピクセル格子などは分解してしまったら、おかしい、ということになる。Nikon D2X とSD14は1ピクセル格子は見事に平均化しているのがよく分かる。ただ、縦横の1ピクセルの線はSD14がなんと解像しているのだ。これはまさしく、マルチショット機に可能な芸当で、ワンショット機ではあきらめていていた能力だ。
上記のチャートを2ピクセルで制作したもの。結構実力がよく分かってしまうのがこのチャートだ。1ピクセルの格子はグレイにしたが、2ピクセルの格子は解像しかけている。但し、形は分解できても色彩がついて行かなかったり、本来の色彩ではなく融合した2次色になってしまったりもしている。Nikon D2X は格子の形自体におかしな演算がされているようだ。FUJIFILM Fine Pix S3 Pro はさらに厳しい。
中心に向かい、細くなる放射状のライン。どのあたりまで解像するのかを連続で確認できる。Nikon D2X が比較的健闘しているのが、わかるだろう。SD14 といえどもある点(1ピクセルを大幅に下回ったところ」から偽色が発生する可能性があることがわかる。
解像度比較
例によってのチャート比較。右上が元画像で左上がSD14。左下が平面色分解の中でも比較的優秀な解像感を誇るNikon D2X 。右下が筆者が持っているカメラの中でももっとも偽色を発生するFUJIFILM Fine Pix S3 Pro これはすでに古い世代のモデルに入るが、偽色の比較のために特別出演。
さらに6ピクセルに拡大したもの。何が何でも奇麗に解像して欲しいのはここで、6ピクセルで見事に解像しているものは200%拡大が普通に可能だと思って差し支えない。(2ピクセルで見事に解像している場合はさらに拡大使用が可能だということだ。)元画像の形、色彩をもっとも解像しているのがいわずとしれたSD14。このあたりになると、FUJIFILM Fine Pix S3 Pro の方がNikon D2X よりも良かったりもする。一筋縄では行かない部分だ
格子と直線のピクセルの位置をほんの少しずつ、ずらしながら作られたチャート。全く同じチャートでも、撮影時にはセンサーに対してほんの少しづつ動くはずで、その際の演算の違いを確認するためのもの。しかし、どの機種も多少の「づれ」ではさほど大きな変化は見せなくなっている。
例によって青い枠線で囲まれた画像はクリックすると別ウィンドウで100%表示をします。かなりうるさいのでそのつもりで。
古い機種なら確実にモアレの嵐になるジャケットを撮り比べてみた。この写真ではNikon D2X の方に見事なモアレが発生しているが、実はこれはかなり苦労してこのピンポイントを見つけたもの。少しずつ距離を変えて、もっともモアレが出やすいポイントとライティング、絞り値を探した。SD14の方は D2Xで探し出したポイントを中心に、試行錯誤してみたのだが、ほとんどごらんの通りの状態だ。この条件でほとんどモアレが発生していない。
襟の部分はNikon D2X では形が流れ、生地の質感が得られないが、SD14 ではこの部分でもしっかりと質感を描写している。
モアレ実写
SD14
D2X
レンズの焦点距離が1.7倍
いわゆる一般的なAPSCセンサーよりも一回り小さいセンサーサイズを持つ所為でレンズの焦点距離は1.7倍となります。望遠側で200mmが340mm相当になるのは嬉しいけど、広角側で18mmレンズがやっと30mm相当になるのはちょっとつらいと感じました。

今回試用した70mmマクロは約 120mm。商品撮影には持って来いの組み合わせとなった。もっともシグマは明るい広角単焦点レンズをラインアプしているのでそれほどつらくはないかもしれない。

10~20mmという超広角レンズが17~34mmとなり、使いやすい広角レンズになるといえそうです。
もちろんRAWデータ現像ソフトも用意されています。カメラボディの仕上がりによく似た簡潔な現像ソフトで、一目みただけですぐに作業に入れます。改造感重視の設計らしく、SD14の良さを十分に引き出してくれる。色彩もあまり派手ではなく、素材感を重視しているようで好ましい。特に「X3Fill Light」という使いやすいスライダーはシャドウ部やハイライト部をできるだけ維持して中間調だけを明るめ、あるいは暗めにコントロールし、トーンカーブの達人のようなことをいとも簡単にやってくれます。
Sigma Photo Pro 3.0
近赤外線に対する反応
レンズ交換時に外部からのゴミをシャットアウトするために搭載されたダストプロテクターは脱着可能になっています。内部で発生する埃を取るためですが、実はこれは近赤外線カットのホットミラーの役割も同時にこなしています。いまのところストロボ光源、太陽光光源にたいするチューニングのみらしく、ストロボ光の近赤外線成分はある程度カットしているが、タングステン光に対してはほとんど効きません。(Nikon D2X と比較するとやや見劣りがするようです)しかし、これが交換可能なことを考えれば将来的にプロテクターだけを素晴らしい物にバージョンアップすることも可能なのかもしれません。
ちょっと特別な機能
背面液晶にISO、解像度、JPEGクォリティ・ファイルタイプ、ホワイトバランスという撮影に重要な4種の設定項目が表示され、「クイックセットボタン」一つでコントロールできる、というコンセプトが導入されています。確かにアクセスはいいし明快で使いやすそうなのですが、「戻る」ボタンが無く、一方通行なのを忘れてしまい、つい異なる操作をしがちなのが気になりました。慣れの問題かもしれないのですが…。
ダイナミックレンジ
いつものかなり意地悪な状況で撮影してみた。再シャドウ部ではいくらかクリップを見せる。またハイライト部を安定させるためには結構絞り込まないとつながらないようだ。シアンでかこった写真が上図でF7.1。一件よさそうに見えるが額の辺りでハイライト飽和を起こしている。下図の紫で囲ったF10の写真は上よりも1/3絞ったもの。ここでハイライトの飛びはなくなり、明るい側のトーンがつながるが、シャドウ部は結構つらい。もちろんわざとこれだけ厳しい状況を作っているのだからそうは良い点は取れないのだが、水平色分解のセンサをもつデジタルカメラは2/3絞り程の余裕は持てるし、シャドウ部にももう少し余裕はある。垂直色分解方式のもっとも大きな問題点だといえるでしょう。
総論
オールマイティなカメラではないが、大光量を確保、ライトコントロールが可能であり、しかもモアレしやすい高周波成分を多く含んだ被写体(衣料やメッシュを持った製品、コントラストの強い小さなロゴマークを含んだ商品など)を多く
撮影しなければならない場合、大いに威力を発揮するデジタルカメラだといえるでしょう。個人的には画像を生成するエンジンの仕様か、もともとレスポンスが非常に高いデータであるのに、さらにそれを強調しすぎる絵作りをしているように感じます。もう少し明暗や色彩に対してグラデーション重視の仕上げが出来るように進化したなら応用範囲が広がるような気がしました。  

       鹿野 宏