待望のFUJIFILM Fine Pix S5 Proが発売されました。あたしも発売日に手に入れたので早速いつものテストを行ったのですが、幾つかのツアーに参加していたんで発表が遅くなってしまいました。
基本的にはFUJIFILM Fine Pix S3 Pro のボディがNikon D200になったというもの。これまでいわれ続けてきた、いわくシャッターのレスポンス、感触が悪い、オートフォーカスの精度が低い、遅い。バッテリーがすぐに無くなる、ちょっと寒いと動かない。全体が安っぽい、でかい、不格好…うんぬん。これらは一気に解消したと思われます。実際にD200と比較した画像がこれで、正面から見た時のメーカーロゴとネームのエンブレム、レンズに向かって右下のバッチのある無し。この程度しか違いはなく、ハード的な操作系も全く同じ。ただ背面から見た時のデジタル系のコントロールボタン部分に少々違いがあります。Nikon D200と全く同じ位置に同じ機能が割り当てられたり、異なる紀央が割り当てられたりしているのは、元々D200のユーザーだった人間には(しかもひき続き使用している場合)OKボタンとEnterボタンの位置が異なることが混乱の種になるでしょう。それは慣れの問題として、D200の使い勝手はそのままに、進化したS3Proが搭載されたと考えて問題ないでしょう。ボディ周り、使用できるアクセサリーなどもD200と同等、詳しく検証してはいませんが電池の持ちもD200とほとんど同じという印象でした。ただし、D200とS5Proのバッテリー間に互換性はありません。形も規格も同じで充電器は共用できるのですがお互いのボディで認識しません。汎用のリチウムバッテリーで事故が発生し、リチウムは非常にパワーが大きく間違った使用をすると危険なため、各メーカー独自のセキュリティーがかかっていて互換性が無くなっているようです。安全のためとはいえ、逆に汎用電池の存在がなければこんなことにはならなかったのだろうと思うとちょっと汎用電池を製造しているメーカーに対して腹立ちを感じます。また、安全性を確保できていれば、同じコードを使用できないものかとも…。両方のボディを使用する人間に取っては余計にトラブルの種になりかねません。
上から見たらばほとんど見分けがつかない
正面から見るとロゴやエンブレムが異なる。
ここが問題のOKボタン
あたしは結構戸惑った
解像度チャート
早速1ピクセルの性能からチェックしました。いつも使用する電塾、阿部氏開発のイメージセンサーチェッカーを使用します。これは何度も解説していますが、赤枠内の1コマがイメージセンサー1ピクセルに相当するように撮影することの、そのセンサーの1ピクセルの実力を推し量るものです。たとえば600万画素と1000万画素をfullに使用して同じチャートを撮影した時はどう転んでも1000万画素の方に軍配が上がってしまいます。それでは真の実力は見えません。1ピクセル、ないし4ピクセルに対する解像力をチェックすることで真の実力を比較でき、もしそれが同じ実力であるならば、全体の解像感は×画素数で簡単に求めることが可能です。但し私はこのカメラは600万画素のカメラとして受け取っているので解像度チャートは600万画素モードでの撮影。S3 Proの時代から、JPEGは600万画素で撮影していました。
左がチャートの全体像。比較しているのは左上が元データ。右上が解像感の高さでは定評があるNikon D2X 、左下がS3Pro、右下がS5Pro。これらは100%で確認した時に初めて詳細にその違いを確認できます。
まず、この赤枠の部分。上段のライン、すべてのドットが1ピクセル幅で記録されています。さすがに、1ピクセルで結像した画像がそのまま記録できるわけはないことは皆さんもご承知でしょうが、それを如何に処理するか…センサーのもつ極限の能力と画像処理力を見るわけです。細かな市松模様がさらに細かくなった時に、どう見えるか?もちろん含まれている色彩が中間調であればグレイになり、その中に青い成分が多ければ青っぽいグレイになるはずです。どこまで解像しようとするのか、どこで解像することをあきらめて自然な見え方にシフトしていくかという[境界線]を見つけることが出来ます。Nikon D2X は縦横、斜めに対してのレスポンスに大きな違いはなく、一抹はグレイに、ランダムなドットはそれに近く解像しようとしています。Fine Pix系は縦横に強く、斜めの線は解像することをあきらめたように見えます。解像感はS3、S5ともに大きな差はないように感じますが、偽色はS5Proが少なく見えます。赤枠内右下の同心円はニコン系が無理をしているように見えます。
これを2ピクセルのドット、線に置き換えてみました。これでも本来はまともな絵になれるはずはないのですが、かなり元の画像に似た再現をしており、市松模様はNikon D2X が見事に書き出しています。 S3、S5Proも健闘していますが、ややS5 Proの方が再現力に勝っているようです。
さらに4ピクセル。ここで市松模様に関しては逆にS5 Proの方が[平均化]への道を選択しているようです、但し、白黒の割合がはっきりしている部分ではその太さを見る限り、より正確になっています。
中心に向かって段階的に細くなる線。どこで解像をあきらめていうのかということがよく分かります。S3 ProよりもS5 Proの方がもう少し頑張り、偽色も減らしています。
1.3ピクセルの位置ずらしチャート。S3 Pro、S5 Proともに配置がずれることによってモアレの発生の仕方が変化しますがS5 Proの方が柔らかいモアレです。
1.6ピクセルの位置ずらしチャート。S3 Pro、S5 Proともに配置がずれることによってモアレの発生の仕方が変化しますがS5 Proの方が柔らかいモアレです。
中央で太きなる同心円。上下左右の切り欠きは1ピクセルです。Nikon D2X は1ピクセルを切った角度の浅い線で解像できなくなっていますが、S3 Pro、S5 Proともに平均的に解像します。モアレは見ての通り。
S3 ProとS5 Proでは背景の色の違いによる、色分離にも進化が見られるようです。
S5 Proになって演算ミスが大幅に減ったといってもいいでしょう。
ここより下の画像はクリックすることで別ウィンドウで100%表示が可能です。ただし、ちょっとデータが大きめなので覚悟してください。
それではもっとも気になるダイナミックレンジの幅です。
この比較画像は、4つのモードで、もっとも明るいF5.6からもっとも暗い画像はF20まで1/3段ずつ絞り込んでいったもの。被写体はライト側に白いバックで白いもの。シャドウ側にレフバンも置かずに黒いバックに黒いものを配置するという、嫌がらせをしているような設定で、私がダイナミックレンジのテストをする時によくやるセッティングです。これだけ条件のきついところで、撮影した結果、1/3絞りでばらしていき、何カット分(何絞り分)までが使用可能かを確認するわけです。
1段目がD-RANGE100%、TONE(コントラスト) STDでやや固めの設定。実はこれでも他のデジタルカメラよりは広いダイナミックレンジを持っている。
2段目がD-RANGEは100%のまま、TONE(コントラスト)をORGに広げて見ました。ほんの少しシャドウ側に広がったように見えますが、これはコントラストを狭めただけ。
3段目がD-RANGEを400%に設定。最大幅のダイナミックレンジ。TONE(コントラスト)はSTDを選択し、やや固めの設定。
4段目がD-RANGEにAUTOを選択。被写体のコントラストに合わせてダイナミックレンジをカメラ側がコントロールするように設定したもの。比較用にTONE(コントラスト)はSTDのまま。
このような設定で撮影しています。
さて、もっとも明るいF5.6の画像を見てみましょう。ダイナミックレンジ100%の画像はトーン(コントラスト)にかかわりなく、シャドウはぎりぎりセーフですが(本来セーフでなくとも良いシーン)明るい側は飛びまくっています。でも400%、AUTOでは背景と石膏像の肌とが分離して見えています。
255で飽和しているポイントをハイライトするとこのようになります。ダイナミックレンジ100%の状態では明るい部分のほとんどが255に達しています。
トーンカーブを使用して丁寧にハイライト丁寧にハイライトを描写するとここまで持ち直すことが可能。もちろん通常のデジタルカメラと同程度のD-RANGE100%の画像ではこんなことは不可能な話です。
もっとも暗いF20で撮影した画像です。これもトーンカーブを丁寧に作ることで使用可能なデータに仕上げることが出来ました。もちろん、トーンジャンプを抑えるために16ビットでハンドリングします。
今度は各列のダイナミックレンジを確認します。D-RANGE100%、TONE(コントラスト)STD(左)とD-RANGEは100%のまま、TONE(コントラスト)ORG(右)ではおおむね同じ動きをしていますが、ORGの方がシャドウを締めにかからないことが見て取れます。被写体のコントラストが強めのときはORGのほうが適性でしょう。
D-RANGE400%のヒストグラムはTONE(コントラスト)がSTDであるにもかかわらず、F5.6の画像もハイライトがレンジに入っているのがおわかりでしょうか?。つまりある程度の調整(トーンカーブであったり、ノイズの追加など)さえ覚悟すれば、適正範囲はここに上げた9段すべてが十分に使用可能なデータだといえるのです。
D-RANGE AUTOは400%に比較してやや明るく記録されます。400%の場合は何が何でもすべてを幅の広大なレンジ内に記録するため、被写体が持つコントラストによっては撮影後に必要なコントラストになるまで調整してあげることが必要になるのです。それに対して、D-RANGE AUTOの場合はカメラ側が被写体の持つコントラストに合わせて必要なダイナミックレンジ幅を適用してくれるので不要にコントラストの低い画像は作らないのです。ヒストグラムを確認すればわかることですが、F5.6とF6.3は調整が必要でもF7.1からF11までの5段は調整不要です。またF13 、F4、画面にはありませんがF20までも400%と同じように調整によっては使用可能なデータです。使用可能範囲が、4絞り分。その中で調整不要で使用できる範囲が、約2絞り分あり、それだけの露出の振れを起こしても調整抜きで使用可能になるというのは驚くべきことです。今まででしたら、完全にオーバー、あるいはアンダーになってしまったはずでしょう。このAUTOの動き、ダイナミックレンジの特にハイライト側の処理はS3 Proに比較して、数値的な裏付けはありませんがさらに「見事」に進化している印象を受けます。
ちなみにこのコーナーで取り上げた画像はすべてJPEGでの撮影でRAWデータはいっさい使用していません。S5 Proこそ、安心してJPEGで撮影が出来るカメラだといってもいいでしょう。お勧めの設定はD-RANGE AUTO。それ以外は後工程で調整をするならCOLORはORG、TONEはORG、SHARPNESSはMEDIUM SOFTがいいでしょう。いっさい調整したくないならCOLORはSTD、TONEはSTD、SHARPNESSは
MEDIUM SOFTにしてみてください。きっといい結果を期待できるでしょう。
ダイナミックレンジ
感度変化
左上からISO100、200,400,800,1600,3200です。ISO100.200.400はほとんど見分けることが出来ません。800になって、ややコントラストが下がり、ダイナミックレンジが低くなり、目を凝らすとノイズが見え出します。もっともこの程度のノイズは印刷に良い影響を与えはするものの、悪影響はないでしょう。(トーンカーブでシャドウを起こすことさえしなければ)
ISO1600でさらにコントラストが下がり、ノイズも見えてくるようになります。が、スナップであれば十分過ぎるほどに常用粋に入ります。
ISO3200でさすがにざらつき感が見えてきます。でもスナップに使用する程度なら、なんら問題ないといえるようです。ちなみにこの感度の高さは広いダイナミックレンジによって支えられているもので、高感度側では再現できるダイナミックレンジは当然狭くなっていきます。最大のダイナミックレンジを手に入れたければ、ISO100で撮影することをお勧めします。
100%表示の白黒部分
100%表示のシャドウ部分
長時間露光
S1 Proの時代から長時間露光に定評があるFUJIFILM Fine Pix Proシリーズですが、今回もそれは健在。ISO20015から25秒の露光時間で撮影してみたが、ややコントラストが下がること以外に特に問題を見つけることはできませんでした。動いてさえいなければほとんどのものを地明かりで撮影できるといっていいでしょう。これもちょっと驚異的なことです。ちなみに作例は真っ暗にしたスタジオで被写体から7mはなれた窓のカーテンをちょっとだけ明けて撮影しました。
近赤外線に対する反応
さて、ここまで良いことづくめで書いてきたが、S3 Pro時代から問題が多かった近赤外線による分光反射特性変化に関する対策はほとんど進化していないように見受けられます。それ以外の進化が素晴らしいだけに残念なポイントです。近赤外線対策には定評のあるNikon D2X 、D200と比較しましたが、黒が赤に、モスグリーンが見事に茶色に変化しているのがおわかりでしょう。タングステンとストロボ光源を比較すると当然ながらタングステン光源において、よりその変化が大きいのも同じです。光源によって特性が変化するのですね。(ニコン系はストロボとタングステンの差も少ない)ぜひ、次回に向けて改善して欲しいところです。
その他にも、5種類のフィルムシミュレーションモード、背面液晶で撮影した顔を選択的に拡大する機能、RAW+JPEG同時記録、最大30秒のカラーライブビュー機能(S3 Proはモノクロ)などが新機能として追加されています。
アクセサリーがNikon D200に準拠ということですが、もっともうれしかったことは隠れた新機能としてワイアレスでニコン製のクリエイティブライティングシステムを活用できることです。ポップアップストロボがそのままコマンダーになっており、SB-600.800を使用していれば本体からポップアップストロボとA、B2群のスピードライト群を自在にコントロールできるものです。S5Proの諧調性の広さと相まって過半数のロケをこれでこなすことが可能になってきました。
その他
後書き
まだNikon D200が発表される前、これを見た瞬間に、ニコンさん側に「このボディをフジさんに売ってくれ!このボディの中にS3 Proが入ったらたらきっと買いだ!、いや、あたしは絶対に買う!」って訴えていたのはあたし。多分一番最初にこう叫んだのはあたしのはず。紆余曲折はあったらしいし、そう簡単なことではなかったらしいが、すでにフジが改造できるカメラボディは製造中止。これしかなかったのだ。デジタルカメラの将来を占う意味でもこれだけダイナミックレンジが広いワンショットタイプはそうざらにはない。(いや、唯一といっていいだろう)そのカメラが、Nikon D200のボディに包まれて発表されたのだ。ぜひ一度手に取り、JPEG、600万画素モードで撮影してみて欲しい。きっとそのポテンシャルの高さに感動するだろう。お勧めの設定はJPEG600万画素モードでホワイトバランスはきちんと取るか屋外なら太陽光マーク。D-RANGE AUTO、COLORはSTD、TONEはSTD、SHARPNESSはMEDIUM SOFT。ISO感度は100で自動感度切り替えあり。ほとんどのスナップはこれでOK!。
もちろんすでに私に主力カメラの一角だ。