前々からデジタルカメラは、その性質を大いに生かすのならミラーボックスとペンタプリズムの無いカメラが合ってもいいと思っていました。いや、それこそがデジタルカメラが進化する上でブレイクスルーになる技術だと思っていたのです。まさしくミノルタのディマージュシリーズは確実に進化を続け、液晶ビューファインダーは徐々に使い物になろうとしています。
一眼レフだけがデジタルカメラの目標ではなく、それはあくまで通過点だと私は思っているのです。しかし今や一眼レフメーカーとなってしまったニコンさんもキヤノンさんもそのようなものは作らないとおっしゃいます。デジタル一眼レフを目指すのだと。
 私はこのR-D1は大いに評価します。コンシューマー向けというよりはハイアマ、プロ向けのレンジファインダーのデジタルカメラ。この出現には大きな期待をかけてしまいます。
 コンサートやジャズのジャケット取り、スナップ、風景、取材には大いに力を発揮するでしょう。また、レンズ設計の制約が少ない事も魅力です。古き良きレンズがデジタルで復活するのも嬉しい事でしょうが、デジタル特化したチューニングをされたレンズが低コストで開発できるだろうという事の方が遥に魅力です。
そういった期待を込めてR-D1をしばらくお借りして見ました。早速そのインプレッションをレポートします。もちろん私が触たのは発売前のβモデルです。実際の発売にはかなりの改良が加えられていると思われます。



触って見た

 思ったよりも重い。感触は最高とは言えないものの、悪くない。それよりも使い方に関する説明書がいっさい無くても触れてしまうレイアウトはまさにメカニカルカメラだ。最近の初めて触るメーカーのデジカメ(特にコンシューマー機は家電と融合しどんどんわからなくなってしまったと嘆いているのは私がおっさんだからだろうか?)そして手になじむ。首から下げた時に、ほかのデジカメのようにごろごろしない(特に私のおなかは最近とみに立派になってきたので)デジタルカメラのあの厚さにすっかり慣らされてしまっていたのだが、手に持ちやすいカメラという感覚を久しぶりに思い出した。
 グレーバランス、フィルム(じゃない記録可能枚数)と電池の残量計、画質モードがひとつの丸い窓にメーターとして収まっていて、これは実に見やすい。アナログの方が良い場合は迷う事なくアナログを選択するべきだな、と思った。特に残量、ホワイトバランスは位置で見る事が出来るのでありがたい。
 このメーターの最大の魅力はスイッチを入れた瞬間だろう。ふうーと針が動きデータの空き容量、指定してあるホワイトバランス、電池残量、記録モードが所定の位置に移動する。記録モードを変更すると、それにつれてフィルム残量が変化するのも目に楽しい。
 本来の良さとは違うものなのかもしれないが、触っている喜びが感じられる。
私はこの手のクラッシクカメラに対する愛着はほとんどない。だから。ライカと比較してどうのというような比較の仕方がほとんど出来ないのだが、バルナック型のライカ(太田原さんが持ってきてた)と並べて置かれた時に、将来的にここまでコンパクトに出来たら確かに嬉しいなと思った。

手に持って左肩にあるダイアルがジョグダイアル。上下に段に切り替えて使用する。
電池室と電池。こんなに小さい電池でRAWデータを150枚は撮影できた。
なぜCFカードでは無いのか、と開発者に詰め寄ったが、やはり小さくするための手段だと言われた。解らないでもないがやはり…
裏ぶたをひっくり返すとディスプレイが現れる。ここにきてやっとEPSONのロゴが…あたしは表に合ってもいいのだと思うけれどもね。ただ閉まっているほうがかっこいい。
何といってもミラーボックスが無いのが不思議。マウントの奥に見えているのがシャッター。このシャッターに触るレンズは残念ながら使用できない。特に沈胴式は絶対にシャッターを壊してしまう。そういう意味ではシャッターレスまで行って欲しいと思う。上が距離計連動ピン。もっとも広角でアバウトなピンでとるためのカメラだとは思うのだが、やはり開放付近で撮影している時はシビアなピントが欲しくなる。

覗いて見た

 合焦精度はこの段階では当然わからない。しかしブライトフレームの良さというものは満喫できる。二重像合致式という懐かしい合焦方式はシビアにピントを求める撮影には不向きなのは当然か?
 一眼レフになれてしまった(それも視野率が100%という)身には、どうしても視野率をつかめない。構図をキリキリまで詰めていく撮影スタイルではなく、余裕をもって構図を作るスタイルに切り替えないと予想外の逆襲を食らうようだ。
 ファインダー内の情報はいたってシンプルで以下にもレンジファインダーらしいが工夫の余地はかなりあると思う。

写して見た

 時々シャッターが降りない事がある。二度切りをするとちゃんと落ちる。これはタイマー機構が働いている所為だ。メカニカルカメラのふりをしてはいるが、実は中身は電子回路の塊だという事を再認識させられる。頭の切り替えを要求されるカメラでもある。というよりも、このあたりはレンジファインダー機の良さを引き出すために、接触型のスイッチなどの採用が望まれる。

 私の場合、何度かブラックアウトした画像を拾得した。原因はレンズキャップをしたまま撮影してしまったから。これも昔懐かし感触だ。当然デジタルなのでもったい無いという感覚は湧いてこない。むしろ、こういうものだな、と再認識させられる。

 ちょっと頭にくることがあった。発売前の最新鋭機を持っているのにちっとも注目されない事だ。ただのカメラ好きのおっさんが写真を撮っているようにしかみえない。しかもシャッター音が小さいため、そばにいる人間もシャッターを切っているのかどうかわからないみたい。…これはメリットの方が大きい?

 絶対にお伝えしておかねばならない事がある。ミラーショックが無いのだ。(当然)私達にとって手持ちの魔の1/15秒で手ぶれが起きにくい。75%の確率でカメラぶれが起っていなかった。こういう機構を持ったカメラを抜きにしてデジタルカメラを語れない時代になったといえるのではないだろうか?

 この写真も東大寺の暗い大仏殿の奥。シャッタースピードは魔の1/15秒。

 F2.8で数枚撮影したがほとんどぶれていなかった。

クリックすると1Mの画像が表示されます。


 撮ってすぐに画像を確認できない仕様なのは何だかうなずけない。ただでさえ撮影がうまく行ったかどうかが分かりにくいカメラなのだから。でもスタイルとしてはフタを閉じて使用したほうが雰囲気だ。という事は撮影後のプレビューは不要なのだろうか? シュミで使用する分にはこれでかまわないが、仕事の時はプレビューが合ったほうがいいと私は思う。もっともこのあたりに関しては最後にまとめて考察したいと思う

 記録に時間がかかるという点もマイナスポイント。このてのカメラは撮影したい時にシャッターを切れるのが信条のはず。このあたりの技術の進歩は今後に期待しよう。
 基本的にRAW画像を撮影し、画像展開を含めて楽しむカメラだと思う。しかしデータを圧縮してないのは気になる。もちろん圧縮するために要する時間と記録するために必要な時間とのかねあいもあるだろうし、圧縮による(もちろん可逆圧縮をしたいという事だが)劣化の問題もあるだろう。それでも512Mbのカードを入れて、50カット程度の撮影可能量というのは私にはどうも物足りない。この倍近くは撮影できて欲しいものだ。せめて撮影者が選択できるようになってくれるとありがたい。とくにSDカードは高価なのだもの。もっともSDカードを選択したおかげであれだけ薄くできたというお話しも聞くのだが、一度メディアを決めてしまうと次世代機もやはりSDカードになるのだろうなあ。CFカード類でもやりようによってはかなりの記録速度をたたき出せると思うのだが…。この当たりは使い勝手と画質とお値段とのかねあいという事かもしれませんね。

現像して見た


この画像もクリックで元画像を標示します。

 いつもの立体チャートを撮影して見たが、シャドウ部分に対するノイズ処理やレンジ調整はRAWで撮影している限り文句ない。というよりよくぞここまでダイナミックレンジを広げたもんだな、という驚きの方が優先する。ハイライトもおかげで広く感じる…というのか、適正露出をアンダー気味に撮影した場合、かなりの好結果が期待できる仕上がりになっているようだ。実効感度300とといっても良いのではないだろうか?
 目立った色彩の偏りも少なく、(というよりもかなり味付けをしない、使いやすいしあがりだ)付属するRAW展開ソフトはシンプルで優秀だ。しかし、インターフエィスのデザインや機能にやや物足りなさ、というか未成熟な部分をそこかしこに感じる。
 まず、どのソフトもそうだが、マック版はスピードアップが望まれる。最適をすればかなりのところに行けると思うのだが…。それにショートカットは手のひらツール、虫眼鏡だけでも良いからPhotoshop CSと同じセットにしてくれるとありがたい。複数のアプリケーションを使う身としてはこのプラグインだけでなく、切に願うものだ。


 Windows版のアプリケーションはバッチ処理なども使い易い。マック版のプラグインにはバッチ機能がないが、ぜひ独立アプリケーションにしてマック版でもバッチ処理を!と願うのは私だけではないだろう。


 露出調整のダイアログが常に確認できるのは良いのだが、グレーバランス(色調、スポイトを含む)も基本作業なのでタブの中ではなくぜひ常に確認できる位置に持ってきてほしいと思う。また、グレーバランスは一ピクセルではなくでとらずに平均値を取るようにして欲しいし、どの程度の平均値を取っているのかもわかるようにしてもらいたい。完ぺきを期すならスポイトした後に微調整ができるともっとよいだろう。


 特種設定の中にいくつか特筆するべき機能が含まれている。フィルム設定の中の[カラー]の項目の中にあるモノクロフィルムの設定は秀逸。ぜひ購入した方々はこのだいご味を味わって欲しい。


 ハイライト、シャドウを任意にコントロールできる[レベル補正]も使いやすい。

 出力設定が基本的に sRGBに固定されているのが気にかかる。環境設定などで好みのカラースペースに固定できたほうが良いように思うのだが…
 各設定ごとの変更、あるいは指定したパラメーターをRAWファイル内に保存出来るようにする事は必須と思われる。それでこそワンソースとしての価値が上がるのだ。また、確認用にRAW調整した画像に調整後の表示用JPEGファイルを貼れる様になるともっと価値は上がるだろう。もっともソフトウエアーはハードと違い、いくらでも書き換え、進化が出来るので素直に今後に期待したいところだ。


カメラ機能
 
屋外で使用する事を大前提にしたためか、カスタムホワイトバランスは省かれている。それでもわたしはカスタムホワイトバランスが欲しいと思う。これはデジタルカメラとしてももっとも特徴的な機能だから。これも趣味の範囲にとどめるか、仕事で使用するのか、という切り分けで考えるべき問題かもしれない。

 ISO感度のダイアルは操作がしにくすぎるし、文字が小さくて解んない。無論昔のまま、といえばそれまでだが、年を取った身にはあのISO感度表示は引っ込んでいる事もあり、見にくくてしょうがない。これだってメーターにしてしまったらいいのに。また、引っぱり上げて回す感覚もつかみづらかった…。それとファインダーの切り替えがもう少しあってもいいな、思う。CCDの大きさの関係で広角側にシフトした設定は作りやすいはず。

 それと書き込みのスピードは何とか速めたいものです。何しろシャッターチャンスに強いカメラなのですから。

希望と期待

 古い名レンズの味をデジタルで確認するのは楽しい事です。なぜ、それが名レンズと言われたのかがデジタルだと正直にでてしまう場合もあり、興味深いものがありました。今回使用したレンズの中ではミノルタの28mmはまさに名機だと思わされました。また以外(といっては失礼ですが)と純正?のコシナ製50mmも非常に写りが良かった事を付け加えておきたいと思います。

 R-D1はデジタルカメラに新しいジャンルを作ったという意味で高く評価したいカメラです。ちょっと忘れかけた遊び心を思い出させてくれる事も。

 ただし、二重像合致式はその精度を機械に頼らざる終えなく、レンズ個々の微妙な差までは吸収出来ないのは思った通りでした。更なる精度向上か、レンジファインダーのオートフォーカスの出現が待たれます。

 最初にも提案したのですが、懐古趣味はけして悪くない(私も大好き)し、EPSONとしての最初の形がこの様な形になるのは順当な進化論だと思う。しかし私は新しいデジタルカメラの形としての進化をRD-1には期待したい。電子シャッターを搭載したCCDでフォーカルプレーンシャッターが不要(あるいは単に埃除けとして存在してもよい。クイックリターンミラーが無く、立て走りのシャッターがあるおかげでほとんどごみや埃がつかないのだ。)そうなるとまったくシャッターのショックは無くなるだろう。リアルタイムファインダー(ライブプレビュー)が実現できたら、物撮りにだって使える。コンピューターから直接操作してピントを合わせ、シャッターを切る事も出来るだろう。スナップは機動力のよいレンジファインダー。これって結構無敵じゃありません? ただスナップの場合、後々のトリミングを考えるともう少し画素数に余裕が欲しいのは欲張りすぎでしょうか?
 もちろんミラーボックスが無いと言うメリットを最大に生かしたデジタルに特化した設計の専用レンズで超広角やオートフォーカスを実現できるとさらに素晴らしいと思います。

 こんな夢のカメラ、実は全て実現可能なことばかりだと思うのですがいかがでしょう。最後にβ機で撮影した写真を数点上げておきます。いずれもクリックで元画像に入れます。
条件としてはけして良くない室内風景。シャッタースピードは1/35秒。さすがにハイエストライトは飛び気味だが、白いシーツなどは綺麗に描写された。
ほとんど真っ暗という状況だが、1/9秒のシャッタースピードでISO200のまま撮影した。シャドウの描写力に注目
結構明るい場所。といっても1/30秒のシャッタースピード。絞りはいずれもF3.5かF4程度。これくらいは“軽い”と思ってしまう。
天空の青空から引く位置の明るい空までの調子はべったりならずに綺麗なグラデーションを描いている。直射日光にもかかわらず飛び出したところもない。
奈良の唐招提寺の奥の小道。昔から好きな道だ。何だかこのカメラをもって歩くのが良く似合う気がした。(単なるカメラ好きのおやじに見えるという事もある)
三月堂の裏手にある小さなほこら。この時点では曇っていたが、良好な発色を得る事が出来た。
薬師寺の東側。少し左に振ると東塔がみえる位置。風の中の笹や稲穂のテクスチャーが良く表現されていることに驚いた。
この写真も確か三月堂の裏手の山道で撮影した。多分レンズはコシナの50mm。何しろレンズや絞りのデータが記録されるタイプのデジタルカメラにすっかりなれてしまっている私は、そういったデータをきちんと残す事をすっかり忘れていたのでレンズ情報などはうろ覚えの記憶だけ。すいません。
奈良の小道をRD-1を首からぶら下げてふらふらとある決まったこの日は久しぶりに撮影行の雰囲気を味わう事が出来た。