H4DII200MS は16352×12264pixelの2億画素をたたき出すモンスターマシンです。一回の撮影で基本となる4ショットと補完データ用に1/2ピクセルづつ斜めにずらしたデータを2カット拾得しますので、6ショットともいわれますが、一番最初に画像を重ね合わせるベースとしてのワンショット画像も撮影していますので、正確には7ショットの撮影となります。(最初のワンカットはプレビュー用として撮影されているようです)
すでに4ショットの品質の高さには定評がありますが、この6ショットの品質はどのような物なのでしょうか?実はかつてジナー社が行っていた16ショットという技術は成功の確率が低く、実用的ではなかったのです…。
電塾特製のピクセルチャートで検証
120ミリマクロの性能の高さは周知の事実ですが、あまりに振動に敏感であるためと、このピクセルチャートを2億画素状態で撮影しようとなると15メートルは離れないと計測できないため、今回は50mmIIを使用してピクセルチャートを撮影しました。いや、50mmII は思ったよりも優秀なレンズだと言う事が実証されてちょっと嬉しい発見でした。まず、赤枠内が1pixelになるように撮影した状態の比較です。実はこれで驚くべき結果が導き出されてしまったのです!
余談ですが、ミラーアップをしたシングルショットとミラーアップ無しのシングルショットの比較です。5000万画素ともなると三脚に装着していてもミラーショックでこれだけぶれているということがよく分かりますね。これ以降のシングルショットは全てミラーアップしています。またシングルショットは1ショットと表記します。
電塾チャートの標準的な撮影方法、赤枠の中が1pixelとして1ショットと4ショット、マルチショットを撮影した比較です。もちろん6ショットは二倍の画素数で記録されます。1ショット<4ショット<6ショットの順で精細さが増していきます。
で、気になった部分は1pixelの同心円部分です。シングルショットは問題外なので外しますが、マルチショットでも上下左右に当たる部分の円弧は記録されずに直線になってしまっています。それが6ショットではきちんと円弧として記録されているのです。これには少々驚きました。
さらに一ピクセル部分です。コントラストが弱まっているはいるもののマルチショットはきちんと1pixelに当てはまり、6ショットも2ピクセルに弁別されています。見事だとしか言えません。どうやら合成演算時にpixelピークの検出もしているように思えてきました。
「6ショットの画像を4ショットの2億画素相当と比較してどうか」「6ショットの画像は2億画素の1ショットと比較してどうか?」そして「4ショットで撮影した画像を200%に補間補正したものと6ショットの比較はいかに」 と言う事です。これを検証するために6ショットでpixelチャートを撮影方法よりも1/2スケールで撮影をしました。この結果を1pixelで撮影した1ショット、あるいは4ショット比較することで擬似的な比較ができるはずです。
「6ショットの画像を4ショットの2億画素相当と比較してどうか」
はっきりしています。1ピクセル、2ピクセル(赤枠の下)チャートでは4ショットに全く敵いません。しかし、4ピクセル(さらに下)5ピクセル(その右)では善戦しています。
「6ショットの画質は2億画素の1ショットよりも優れているか?」
シングルショットの方にモアレがでているため比較しにくい状態ですが、1.3ピクセルの同心円(赤枠の右となり)を見るとシングルショットの方が優れているようにも見えます。しかし2ピクセル部分の同心円(赤枠の下)を見るとほとんど同じように見えます。コントラストなどは6ショットの方が遙かに優れています。この結果は検証した50mmレンズの解像能力の限界値にも関係しており、50mmIIというレンズの解像力が1/2チャートを記録するにはその限界を超えていたのでしょう。追加検証で次回は1ピクセル部分を2ピクセルとして撮影した物と比較する必要がありそうです。
そこでレンズの解像力が十分あるだろう「4,5ピクセル」の部分(画像の一番下左右)で比較してみると、6ショットの方がコントラスト、ライン検知共に優れていることが判明しました。6ショットは2億画素相当の1ショット画像よりも結果が優れているのです!(現在1ショットで2億画素たたき出すには5000万画素機でタイリング撮影することが必要で、「のりしろ」を考えなければ4面タイリングで拾得できますが、十分な「のりしろ」を考えると現実には9面タイリングになると思われます。
「6ショットと4ショットで撮影した画像を200%に補間補正したものでは」
4ショットの画像を200%補間補正して仕上げた物よりは6ショットの2億画素の方が遙かに精細。
つまり6ショットのアルゴリズムは公開されていませんが、単なる補完補正ではなく補完時から1/2ピクセルずらした画像の情報が有効に使われているということははっきりしたようです。
同明度上におかれた異なる色相をいかに分離しているか、という試験でもごらんのように優秀。
2ピクセル部分の色相が入り組んでいるチャートこれをおよそ再現できているということは1/2ピクセルづらしの情報からは輝度のみではなく、色相情報も参照しているのだという予想が成り立ちます。
実写テストは定点撮影で
さて、今度は実写試験です。120mm マクロIIを使っていつもの九段で定点撮影してみました。もう…九段会館の煉瓦とかわらをここまで描写できるか…このものすごい立体感は初めて見ます。そして屋上のフェンスを見て唖然としました。これは…ここまで解像できるというのはこのレンズの解像能力の高さも示していますが…6ショット、十分にその価値あり!です。
撮影場所からターゲットまで約250メートル。250メートル先のフェンスや煉瓦がどう見えるか、ってこと。私が定点撮影しているのは九段下の駅を出て、田安門に入る角の石柱。ここマラ九段会館を望んでいます。
120mmIIを使用するとこんな見え方です。左上が4ショット左下が1ショット右のでかいのが6ショットです。
フェンスのラインや煉瓦の立体感で圧倒されます。
800%まで拡大するとフェンスの柱に階調があるかどうかがはっきりします。この階調のあるなしが立体感に繋がっているんですね。
途中で仕事が入り、50mmレンズのテストは翌日です。しかし結果はさんざんでした。ミスが多すぎるのです。撮影した9カットでほとんどがミスを起こしているのです。(昨日撮影した120mm マクロII ではおこらなかったのに…)
50mmIIの6ショットがなぜこんなにさんざんだったか…実はこの日は台風が来る前日でとても風が強かったのです。この画像を見ても分かるとおり、7回シャッターを切る間(レンズシャッターの安定を待つために5秒の間隔を空けているので実際には1分程度)にこれだけ雲が流されています。立っている自分も「押される」くらいの感覚で一番悪いのは風が吹いたり止んだりしていること…。悪条件過ぎたようです。そこで安定性のテストが必要と判断しました
ちなみにミスを起こした画像を拡大するとこんな感じです。位置合わせができなくなるんですね!
安定性をチェック
もともとピエゾ素子を使用してイメージセンサーを1pixelづつ移動させテ撮影する仕組みで、今回はさらに1/2pixelを移動させている訳ですから、その精度も必要とされ、振動を嫌う物です。内部では6枚の画像の位置のつじつま合わせが行われていますがそれもあまりに暴れすぎると位置合わせが不可能になり、ミスを起こしてしまいます。スタジオではエアコンは動作していて、他のメンバーは普通に撮影しています。サーバの振動もあるはずです。
がっしりした4×5用の三脚に120mmIIレンズを 装着し、10カット撮影してみました。800パーセントでもミスはミスは見つかりません。
プアーな三脚(スリックの35ミリ用のもの)に120ミリレンズを装着して10カット撮影してみました。100パーセント表示では分かりませんでしたが…
300パーセント表示では二件のミスが見つかりました。どちらも撮影中に人が動いたという記録があります。
同じくプアーな三脚(スリックの35ミリ用のもの)に50mmIIレンズを装着して6カット撮影。緑色の跡がでているのが人間が動いた物です。
この3カットには600パーセントに拡大した場合にミスが見つかりました。
全体で26カット中6カットのミス発生。ただし人間が普通に動いている状態です。このボディはサンプルが一台しかなく、皆が手ぐすね引いて待っているので、3日で返さなくてはならず、このテストも担当者が取りに来てくれるぎりぎりまで行ったもの。本来は「シャッターをきっている間は静止」の条件でもテストするべきでしたが、いずれサンプル機が一巡したらば、またお借りしてテストしようと思っていいるので、2ピクセルチャートと共にまたテストしてみたいと思います。
今回は強風であったり、人物が歩いているという記録のあるカットでミスを起こしており、それ以外では成功しているようなので、「実用上安定している」といえそうです。
金田氏や早川氏の経験では人が歩くよりも大型トラックの振動や電車の振動に弱いということもおっしゃっていました。場所を選ぶ、と言う事もありますね。
「1ショット画像を撮影しておいて部分的にそれでカバーする」という方法論を6ショットでは取れないので、それなりの対策は必要だと言えます。毎回現像して確認するか(書き出さないと成功しているかどうか分からないのが欠点)各ショットに二回から三回はシャッターを切り安定性を高める努力が必要…だと思います。
追加検証は必要ですが、テストをする前の私の期待よりは遙かに良い結果であったと思います。これからH4D50MSの改造費を工面しなくては…約120万円です。
実はタイリングは2面タイリングが最も効率が良く、3面、4面と続く。6面タイリング以上はのりしろのマージン部分が多くなり、9面タイリング以上となると作業が繁雑になるだけ。しかもその場合は8×10程度のカメラ、そしてカバリングパワーが異様に大きなレンズを要求します。
しかし4面タイリング以下を考えるのであれば、カメラは4×5で十分、カバリングパワーがそれほど大きくなくとも解像度が高いレンズで十分実用に耐え得るのではないかと想像します。得られる画像サイズは3万×2万pixelで約6億画素…
「6ショット2面タイリング」の画像のは約2万×1.6万 pixelで、3億画素以上になるでしょう。相手が平面であればシフトアダプターで十分いけます。
今後1億画素の1ショットまでは出現してくる可能性が十分にありますが、2億画素のシングルショットは当分出てこないでしょう。出てきたとしてもそれに追随するレンズは絶対にないと思います。で、それよりもたぶん性能が良いのです!これらを考え合わせると、6ショットの価値と立ち位置が見えてくるような気がしませんか?
H4DII200MSであれば、ほとんどの要求は2面タイリングでこなせ、6億画素というとんでもない大きさの画像もたった4面タイリングでこなしてしまう…。この価値はとても大きいと思います。
20111002 電塾運営委員 鹿野宏