■これまでの履歴■

<第6回定例セミナー> 2007.10.27

 
郡司秀明氏(電塾本部運営委員)と庄司正幸氏(電塾会友)による
『ナチュラルビジョン実現に向けたマルチバンド撮影の現状と近未来への展望』
『広色域印刷で拡がる印刷の将来と可能性)
   
   
 
レポート  佐藤 浩視

現在、撮影に際して、画像データはRGB値で記録するのが一般的だが、これは「光の三原色」という考え方に基づいている。本来、光に色がついているわけではない。
色というのは、人間の眼球の中にある3種の錐体細胞に含まれる色素が吸収する波長の割合(単純な比ではなく、L、M、S、3種の錐体の差分からも計算しているらしい)からくる心理的感覚であって、人種的、性的な生物的違いに由来する差分はもちろん、左右の眼球の特性の差分からも色覚は計算されている。
また、文化的、民族的、自然環境といった背景も色覚に影響している。
CIE国際照明委員会が制定する標準視感度が心理物理量といわれる所以である。
RGBで規定する色は物理学的に意味を持たないあくまで人間が知覚する心理量を、印刷やインターネット、テレビや映画の映像、工業製品に利用する際に一定の基準として使用しているものである。
また、RGBで全ての色を再現できるわけではない。そこで見たままの色をできるだけ再現しようとすると、RGBでは限界があり、スペクトルを近似的に再現することで、近づけようとする分光的色再現の考え方が出てきた。
国家的プロジェクトとしてナチュラルビジョンが研究され、オリンパスが開発した16バンドカメラによる撮影、記録は東京大学、千葉大学等との共同研究により一定の成果をあげるが、フィルター回転方式の16バンドでは、一般的な撮影にはとても使えない。
そこでNTTデータは市販の一般的なデジタル1眼レフカメラの前に特殊なフィルターを装着して撮影した画像とノンフィルターで撮影した画像の差分を計算することにより、6バンドの分光データを作成し、RGBモニターで観察することにも成功している。
これはセミナー当日、会場でナナオのadobeRGB対応モニターを使い、レテノールモルフォという南米原産の美しいブルーに輝く蝶と紅色の絹織物の撮影データをプロファイルの違いにより観察することができた。
光源条件によるメタメリズムの問題もあり、興味深い実験であった。
NTTデータでは現在、2種のフィルターを使い、3回の露光による9バンドの分光データの作成を研究中である。
分光的記録方法はほとんど実用の域に達している感がある。
 

 

 

 

2)広色域印刷で拡がる印刷の将来と可能性

オフセット印刷ではCMYK4色のプロセスインクを使用するのが基本であり、特色を加えることもあるが、デジタルカメラでadobeRGBが一般的なRGBプロファイルとして使用されるようになると、その色域の限界も意識されるようになり、より広い色域をもつ広色域印刷が注目されるようになってきた。
CMYKにオレンジとグリーンのインクを加えた6色印刷のヘキサクロームがその代表といえ、ヘキサクロームはほぼadobeRGBを再現できる。
CMYKにRGBを加えた7色印刷スーパーファインカラーもある。
また、従来の4色機をそのまま、使用できるKaleidoやWakimizuも注目されている。
分光的撮影方法により、6バンドや9バンドのデータで画像が記録されるようになれば、より色域を広げた印刷である、ヘキサクロームを初めとするこれらの広色域印刷はもっと注目されるようになるだろう。
6バンドからRGBを経ずに6色に変換できれば、もっとナチュラルな印刷ができる可能性がある。
しかし、これらの広色域印刷をその特性を充分に発揮させるためには印刷用プロファイルが大変重要になってくる。
プロファイルは市販の機材やソフトを使うことで一応作れてしまうが、本当に適切なプロファイルを作るためには、専門的な知識と検証が必要であり、現在、流通している通常のプロセス4色インクを使ったオフセット印刷のプロファイルにも満足できるものは少ないのが現状である。
そのなかでアドビが日本向けに作成したJapanColor2001coatedは優秀なプロファイルといえる。
国内の標準的な印刷であれば、問題はないといえる。
(用紙はJapanColor2001coated の規格用紙を使うのが前提である)
SWOPはアメリカのオフセット輪転印刷機のプロファイルであるから、日本国内とはインクの仕様が異なるので使ってはならない。
JapanColor2001coated がコート紙のプロファイルであるのに対してJapanColor2001uncoatedは上質紙のプロファイルであり、マット紙のプロファイルではないことに注意すべきである。
JapanWebcoated(Ad)はオフセット輪転機のプロファイル、主として雑誌用である。JapanColor2002newspaperは新聞用であるが、新聞社で対応しているかどうかを確認して使う必要がある。
JapanColor2001coatedとJapanWebcoated(Ad)はsRGBに近い (部分的にはsRGBより広い部分もある)色域を持つが、JapanColor2001uncoatedとJapanColor2002newspaperでは、かなり色域は狭くなる。
MD TOOLで確認できるので、自分でチェックしてみると納得しやすいと思われる。
 
写真 藤山武